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『摩訶般若波羅蜜』を読む――はじめに#

『正法眼蔵』の二つめの巻、「摩訶般若波羅蜜」を、原文・現代語訳・解説をそろえて、三回に分けて読んでいきます。「摩訶」は「大いなる」、「般若」は智慧、「波羅蜜」は(智慧の)完成、彼岸に到ることで、巻の名は「大いなる般若波羅蜜」という意味になります。

『摩訶般若波羅蜜』という巻#

巻の終わりには「爾時天福元年夏安居日、在観音導利院示衆」という奥書があり、天福元年(1233年)の夏安居に、観音導利院で大衆に示されたことがわかります。宗務庁版英訳の解題では、深草にあった観音導利院(すなわち興聖寺)での撰述とされ、伝統的な諸本のうちで年記のある最も早い巻とされています。六十巻本・七十五巻本でも第二に置かれ、本山版でも第二巻です。

本山版で第一巻に置かれている『弁道話』は寛喜三年(1231年)の撰述ですから、この巻はそのおよそ二年後に示されたことになります。『弁道話』では、般若は坐禅辦道のなかで育ち、開かれていくものとして語られていました。その般若そのものを正面から主題として取りあげるのが、この巻だと言うことができるでしょう。

短い巻ですが、ここにはすでに、こののち『正法眼蔵』全体を貫いていく道元禅師のものの言い方が現れています。般若を「一枚、二枚」と数えること、経の言葉を独自に読みかえること、そして、私たちの身心と、見るもの聞くもの、毎日の立ち居ふるまいまでを、そのまま「般若」と言いきることです。

全体の構成と目次#

この巻は、『般若心経』の言葉を読む段に始まり、『大般若経』からの三つの引用とそれぞれへの短い拈提(禅師の読み解き)が続き、先師如浄禅師の偈と、ふたたび『大般若経』の一節を引いて結ばれます。内容の切れ目にしたがって、次の三回に分けました。

回 題 内容
第一回 心経の般若 『般若心経』の言葉と「五枚の般若」「十二枚」……そして「行・住・坐・臥」
第二回 大般若経の三つの引用 一比丘の敬礼、虚空のごとく学す、般若の守護
第三回 風鈴頌と仏薄伽梵 如浄禅師の風鈴の偈、「仏薄伽梵は般若波羅蜜多なり」、巻末題と奥書

各回の読み方#

各回の構成は『弁道話』と同じです。

  • 原文 底本の本文を、段落ごとに【1】【2】…と番号を付けて載せています。経文の引用と禅師の言葉がわかるよう、小見出しを付けた回があります(小見出しは原文にはありません)。
  • 現代語訳 漢文の経文や偈には、まず書き下しを示しています。この書き下しは本書による一つの読みで、底本の訓ではありません。続いて現代語訳と「語注」です。
  • 解説 経文がふつうに言っていることと、禅師がそれをどう読みかえているかを並べながら、坐禅や日々の暮らしとのつながりとともにたどります。
  • 読みの分かれるところ 言葉の取り方によって意味が変わる主な箇所を取り上げ、考えられる読み方を並べました。一つの読みを唯一の正解とはしていません。
  • 参考 底本と、参照した資料です。

この巻の原文には漢文が多く含まれます。難しく感じられるときは、まず現代語訳と解説を読み、そのあとで原文に戻っていただくのもよいと思います。

底本と参照資料#

  • 底本:『正法眼蔵』本山版(九十五巻本)第二「摩訶般若波羅蜜」
  • 参照:曹洞宗宗務庁『Treasury of the True Dharma Eye: Dōgen's Shōbōgenzō』Vol. I(Sōtō Zen Text Project、2023)
    • 人名や年代、経文の出典の確かめ、読みの分かれる箇所の参考として用いました。本文中で「宗務庁版英訳」と呼んでいるのは、この書物のことです。この書物の日本語本文は本山版とは系統の異なる本文に拠っているため、字句が本山版と違う箇所があります。本書は本山版の本文に従っています。

解説は、曹洞宗の宗門の立場から書いています。

『弁道話』から読み始めたい方は、『弁道話』を読む――はじめにをご覧ください。