『一顆明珠』を読む――はじめに#
『正法眼蔵』の四つめの巻、「一顆明珠」を、原文・現代語訳・解説をそろえて、三回に分けて読んでいきます。「一顆明珠」は「一つの明るく輝く珠」という意味です。「顆」は、珠や果実など、丸いものを数える言葉です。
『一顆明珠』という巻#
巻の終わりには「爾時嘉禎四年四月十八日、在雍州宇治県観音導利興聖宝林寺示衆。」という奥書があり、嘉禎四年(1238年)の四月十八日に、観音導利興聖宝林寺で大衆に示された(示衆)という記録が残されています。宗務庁版英訳の解題では、この巻は1238年の初夏に興聖寺で書かれたものとされます。奥書にはさらに、寛元元年(1243年)に懐弉禅師がこの巻を書き写したことが記されています。
宗務庁版英訳の解題によれば、この巻は六十巻本・七十五巻本ではともに第七の巻に置かれ、本山版(九十五巻本)では、弁道話・摩訶般若波羅蜜・現成公案に続く第四巻に置かれています。
解題は、この巻が、唐代の玄沙師備禅師(835–908)の「尽十方世界は一顆の明珠である」という一句に、全体をあげて捧げられた巻であると述べています。巻の前半では玄沙禅師の伝と問答が語られ、後半では道元禅師が、その一句と問答を一句ずつ取り上げて示していかれます。
全体の構成と目次#
内容の切れ目にしたがって、次の三回に分けました。
| 回 | 題 | 内容 |
|---|---|---|
| 第一回 | 玄沙の伝と問答 | 玄沙師備禅師の伝、雪峰禅師との問答、「尽十方世界是一箇明珠」の示衆と僧との問答 |
| 第二回 | 尽十方世界の拈提 | 道元禅師が「尽十方世界」「是一顆明珠」と、僧との問答を一句ずつ取り上げて示す段 |
| 第三回 | 明珠の結び | 全身これ明珠、衣裏・頷下・髻中の珠、「黒山鬼窟の進歩退歩」、巻末題と奥書 |
各回の読み方#
各回の構成は、これまでの巻と同じです。
- 原文 底本の本文を、段落ごとに【1】【2】…と番号を付けて載せています。仮名づかいは底本のままです。
- 現代語訳 原文の段落番号と対応させて訳しています。漢文の句には、まず書き下しを示しています。この書き下しは本書による一つの読みで、底本の訓ではありません。仏教語や人名は訳さずに残し、「語注」で説明しています。
- 解説 その段で道元禅師が示されていることを、坐禅や日々の暮らしとのつながりとともに、順にたどります。
- 読みの分かれるところ 言葉の取り方によって意味が変わる主な箇所を取り上げ、考えられる読み方を並べました。一つの読みを唯一の正解とはしていません。
- 参考 底本と、参照した資料です。
この巻には漢文の問答や祖師の言葉が多く含まれます。難しく感じられるときは、まず現代語訳と解説を読み、そのあとで原文に戻っていただくのもよいと思います。
底本と参照資料#
- 底本:『正法眼蔵』本山版(九十五巻本)第四「一顆明珠」
- 参照:曹洞宗宗務庁『Treasury of the True Dharma Eye: Dōgen's Shōbōgenzō』Vol. I(Sōtō Zen Text Project、2023)
- 人名や年代、語句の出典の確かめ、読みの分かれる箇所の参考として用いました。本文中で「宗務庁版英訳」と呼んでいるのは、この書物のことです。この書物の日本語本文は本山版とは系統の異なる本文に拠っているため、字句が本山版と違う箇所があります。本書は本山版の本文に従っています。
解説は、曹洞宗の宗門の立場から書いています。
前の巻は『現成公案』を読む――はじめにを、はじめから読みたい方は『弁道話』を読む――はじめにをご覧ください。